至福のとき

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先日偶然見つけた本で「小澤征爾さんと音楽について話をする」という、新潮社から出ている村上春樹の本を見つけて読んだ。クラシック音楽の世界と、文学の世界で国内だけではなく、文字通り世界中で認められている数少ない日本人の二人が、音楽についてじっくりと語り合った一冊。
小澤征爾の体に2010年、食道がんが見つかり、治療のために音楽活動の現場から離れ、多くのプライベートな時間が取れるようになったことで、この対談が実現した。村上春樹も言うように病気にかかるという残念な面もあるけど、自分の足跡を見つめ直し、客観的に音楽と自分の立ち位置を俯瞰して見る時間が取れたのは、これからの指揮者としての活動を続けていくのには、良かったのではないかと思います。

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作家としての村上春樹の作品は殆ど読んでいて、作中に出てくるジャズやクラシック音楽の知識の豊富さや深さは、作品としての奥行きをだす一助になっていると思いますが、その彼が東洋人として、初めて西洋の音楽界の中で受け入れられ、認められた小澤征爾と対談し、その音楽を指揮した時の内幕や、ソリストの個性や癖など、音楽を聴いているだけでは到底わからない内輪話が満載で、グルードのベートーヴェン・ピアノコンチェルト第三番とか、サイトウ・キネン・オーケストラがニューヨークのカーネギーホールで演奏した、ブラームス交響曲第一番、同じくサイトウ・キネン・オーケストラ演奏のマーラー交響曲第一番など、電車の中でこの本を読みながらiPhoneで聴く音楽は、何物にも替えられない幸せな一時でした。

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ふたりとも音楽と文学と活躍するジャンルは違いますが、芸術家として「物を創り上げていく過程」は近いものがあるようで、私が仕事としているグラフィックデザインにも通じるものがあるように感じます。

音楽好きや、物を作り上げることに喜びを見出されている方にはお勧めしたい一冊です。